札幌から約50分。千歳から約50分の農業の町。

走り方を教えている廣井さん

子どもの飛躍を後押しする「きっかけ」づくり
空知陸上ランキング1位の選手続出

なんぽろ人 #2

< 南幌スーパーアスリートクラブ・廣井 健一さん >

 「On your marks. Get set」
 とある金曜日の夕方、南幌町内のスポーツセンター2階に行くと立て続けに聞こえてくる、このフレーズ。「Go!」の掛け声で、子どもたちが次々に走り出していきます。熱気。額から頬に伝う汗をぬぐいながら、駆け抜けていきます。

 休憩になると、それまで黙々と走り込んでいた表情が一気に笑顔に。走った疲れも感じさせないくらい、いたずらっ子な子どもたちに変身です。

その笑顔の中心にいる男性が、今回の「なんぽろ人」。南幌スーパーアスリートクラブ(以下南幌SAC)の指導者・廣井健一さん(72歳・令和3年4月時点)です。

 平成24年に誕生した南幌SACは、町内の未就学児と小学生が通う陸上チーム。「通う」と言っても、正式な団体登録などをしているわけではなく、ボランティアで陸上を教えている廣井さんに習いたい子どもたちが、毎週水曜日と金曜日の夕方に集まっている形です。いわば、「自主参加な」チーム。参加は強制的ではないし、月謝もない。スポーツセンターの毎回の使用料をそれぞれが支払うのみです。

 その南幌SACの子どもたちが、すごい。令和2年度の空知陸上ランキングで1位となる選手が続出。1年女子800mで空知記録を樹立した鈴木瑚子さんを含む7名が13種目でトップを飾りました。空知小学生記録を持っている南幌SAC出身者が、5名もいます。

 他の地域から参加しているのは、もちろん「月謝制」のチームに加盟している選手たちが大半。その中で、自主参加な南幌SACが飛躍できたのは、どうしてでしょうか。

 「子どもたちはみんな、潜在的にアスリートの能力を持っています。私は、その芽が出やすくなるように応援しているだけ」。廣井さんが、走る選手たちの姿を見つめながら教えてくれました。自主参加な南幌SACに通う子どもは、「速く走れるようになりたい」「陸上の大会に出たい」というような目標を持っています。毎回の練習を通して、その目標に近づけるようにバランスよく身体を動かしていく。結果として、空知陸上ランキングで飛躍する子どもたちが続いたわけです。

 「これまで思いっきり走ったり、飛んだりしたことがない子どもが多いです。ここで練習を繰り返すうちに、それぞれが持っていた能力が開花していくのが見れるのは嬉しい」。子どもたちが飛躍する「きっかけ」を与える役目と考えているそうです。

 目標を持って、それに向けて努力をする子どもたち。その背中を押してあげる廣井さん。「走るのが速くなった」という口コミで子どもが集まり、設立から10年間、一度も選手が途絶えたことがないそうです。

お手製のハードルを飛ぶ選手

練習用具は全て手づくり

 走り込んだ後の休憩中に、廣井さんと保護者の方々が並べていく練習用具。よく見てみると、2つのコーンそれぞれの上に何か器具を差し込み、その上に棒を置いてハードルに。高さが変えられるようにラックのような段が付いている差し込み器具もあります。

 練習用具は、廣井さんのお手製のもの。子どもたちの運動が伸びるよう、跳んだり走ったりを効率よくこなせるように作ったものだそうです。「私は大工っけがないので見た目はひどいし、すぐ壊れて修繕の繰り返しだけどね」と微笑みながら、用具を組み立てていきます。練習は創意工夫。能力が伸びるように廣井さんのアイデアを盛り込んだ用具が、子どもたちの成長をサポートしているようです。一つ、南幌SACの選手たちが飛躍している秘訣が見つかったような気がします。

 元体育教員だった廣井さん。陸上はもちろん、野球など他の部活の顧問も経験してきたそうです。競技経験がない部活だったら、顧問として生徒たちに教えられるように自身で学んでいました。その経験が、今の南幌SACに繋がっています。

 「常に動いている、ずっと動いているバランスのいいトレーニングを心がけています」。確かに、短い休憩を挟んで、手づくり練習用具を活用しながら次から次へと違うパターンの練習をこなしています。集中、休憩の切り替えのメリハリも印象的でした。

私と親御さんは「応援団」、
みんなのおじいちゃんだと

思っている

上述のように、保護者の方々も練習用具を設置していく姿がある南幌SAC。実はそれだけにとどまらず、タイムの計測、記録、消毒、片付けなども、廣井さんと協力して保護者の方々が行なっています。練習内容のお手本を見せる役目も、子どもたちのお父さんお母さんです。

 撮影で練習場に訪れた私カメラマンにも、「はい、では縄跳び50本お願いします」と手渡されたのは、直径5センチくらいはある極太ゴム製の縄跳び。撮影だけのつもりが、息も絶えだえで飛びきったカメラマン。お手本になったのかはわかりませんが、参加してみて「一緒に頑張っている」という気持ちが芽生えたのは確かです。

 「練習では、保護者もコーチなんです。子どもを真ん中にして、お父さん・お母さんと私はボランティア応援団です」と廣井さんがニヤリ。参加している全員で、子どもたちの目標を現実にしていく努力をしているのだと実感できました。

 「南幌SACの子どもたちはすごいよ。こんなことを自信を持って言えちゃう。自分を、みんなのおじいちゃんだと思っています」。我が孫を見つめるような温かな眼差し。そして、指導するときの鋭い目つきも、成長を見守る「おじいちゃん」だからこそなのですね。

コロナ禍で「意欲」を保つ創意工夫

 新型コロナウィルスが流行し始めた令和2年は、練習成果の発表の場として重要だった大会の中止が相次ぎ、子どもたちの練習に対する意欲の低下が心配されました。そこで廣井さんが取り組んだのは、チーム内で独自の大会を開くこと。中央公園では「スポーツの秋を楽しもう 親子駅伝」、南幌小学校の校庭では「目指すのは自己新! 家族で走り幅跳び記録会」などを開催。

 それらの大会で記録を伸ばすことを目標として設定し、日頃の練習をする「意欲」を保つ廣井さんの創意工夫でした。しかも、競技をするのは子どもたちだけでなく、保護者の方々も。子どもも親御さんの頑張っている姿が見れる機会は、それほど多くないはず。幅跳びの計測をするお父さんが見ている中、お母さんが飛ぶ。子どもたちが応援する。そんな風景がありました。「子どもと一緒に何かを頑張れるのは、小学生くらいまで。大切にしていただきたい時間です」と今年72歳の廣井さんが語ります。

 コロナ禍で子どもたちの暮らしも遊び方も変化。南幌SACの活動も制限されたのは現実です。「元気に育て、笑顔で育て、という考えをプラスして、子どもたちが力いっぱい走ったり、思いっきり飛んだりして夢中になれる練習や催しを考えています」と廣井さん。「思っていた以上の記録が出て、自分でもびっくりしている子どもがいます。新しい自分の発見ですね。練習で頑張る我が子の姿を見て、普段の生活ではみることのできない新たな一面に出会ったという保護者の方もいます。活動の中で、きっかけづくりと新発見の手伝いができればいいなと思っています」

(取材:令和3年4月)

南幌スーパーアスリートのメンバーたち