馬は大切な「パートナー」
馬たちの温もりに触れる場所
なんぽろスポット#5
< 乗馬施設「南幌ライディングパーク」 >
南幌町の街はずれ、なんぽろ温泉のほど近くにある赤い壁に緑の屋根の大きな建物。ここが町唯一の乗馬施設「南幌ライディングパーク」です。田園地帯ど真ん中の乗馬施設。今回は、ちょっと気になるその施設にお邪魔しました。
「生涯スポーツ」としての乗馬レッスン
実は大半が初心者から
「乗馬」というとどんなイメージがありますか。お金持ちのスポーツ?それとも猛スピードで疾走する競馬のサラブレッドたち?
実はこの南幌ライディングパークの会員の9割が、全くの初心者から乗馬を始めた人たち。初心者でも「生涯スポーツ」として乗馬レッスンを受けることができる施設です。
「動物が好き」「乗馬に憧れていた」など、動機は人それぞれ。1回30分で基本を教わる体験乗馬から入り、4回コースのビジター練習を経て入会する会員が多いとのこと。年齢層は50〜60代がメインですが、中には小中学生や70歳を越えて全くの初心者から始める場合もあるそうです。
馬は道具ではなく「パートナー」
この南幌ライディングパークを経営するのは、松井國彦さんと一恵さん夫妻。國彦さんが馬の飼育全般、乗馬指導の免許を持つ一恵さんがレッスンなどお客様対応や事務作業、といった役割分担で施設を支えています。
施設は屋外馬場のほか、広々とした全天候型の屋内馬場も完備し、冬期間も含め通年練習が可能。一恵さんによると、ひとコマ45分間のレッスンは「基本を大事に、ゆっくり教える」がモットーで、基本的な感覚がきちんと身に付くまでは、むやみに急いで馬を走らせないよう心がけているそうです。
受講者がどのレベルを目指すかは個人の意識次第で「楽しく乗れれば良い」という会員も多いのが実情。一恵さんはそれぞれに合わせたレッスンをしながらも、競技レベルまで上がっていけそうな可能性を感じた場合には声掛けをすることもあるそうです。
共通する方針は「馬を理解し、馬に親しんでほしい」という考え方。馬は乗馬を教えてもらっている「パートナー」。「道具」として考えるのではなく対等の立場に立てるようになってほしいと一恵さんは願っています。
馬のブラッシングや「馬装」と呼ばれる馬具の取付作業など、乗馬の前後作業もすべて受講者自らでやってもらうことにしています。馬に触れることもなく、用具の知識もないままでは、「馬への愛着が育たない」と考えているからだそうです。
馬への愛がクラブ設立に
南幌ライディングパークには、松井夫妻が長い時間をかけて育んできた馬たちへの深い愛情が背景にあります。
旭川市内で育った一恵さんは中学2年生の時、当時あった旭川競馬場で乗馬している人を見かけて虜に。親にせがんで乗馬クラブに入会したのが馬との出会いとなりました。高校生の時は飛越競技の道内新人戦で優勝したこともありました。一方で東川町の農家に生まれた國彦さんも、競技経験はなかったものの、飼っていた農耕馬の背に乗っていた経験があり、幼少期から馬に親しむ機会はあったそうです。
一恵さんはその後、札幌の大学に進学。就職・結婚・出産と経過する中で、乗馬から離れる時期が続きました。しかし子育てが一段落したころ、ふと頭に浮かんだのが馬のこと。自宅から近い北広島乗馬クラブに見学に行ったところ、乗馬熱が再燃して乗馬にのめり込むように。國彦さんも後を追うように入会。夫婦揃って馬とふれあう時間が始まりました。
一恵さんは、そこで出会ったあるサラブレッドと毎日のように練習を重ねるうちに情が移り、自費でその馬を購入。その後もより高いレベルを目指し道外の乗馬クラブまで通い詰めるうち、道内外で3頭を購入して、合計4頭の馬のオーナーになりました。あちこちに馬を置いておくより1ヵ所に集めたいと考えるようになります。
同時に、馬との「別れ」も経験してきた2人は、最期まで自分たちが面倒を見られる場所を持ちたいという思いも抱えていました。自分たちの乗馬クラブを作り、馬に乗ってくれる人が少しでも増えてくれれば、救える馬ももっと出てくるのではないか。そんな思いが、乗馬施設の設立に繋がったのです。
その後、江別市内の自宅や「なんぽろ温泉」に近い立地が気に入り、空いていた町有地を借りることに。平成19年(2007年)、南幌ライディングパークがオープンしました。
年中無休の飼育現場
馬とともに生きていく暮らし
オープンから17年目の現在、所属する馬は全部で14頭。かつて菊花賞や安田記念などのG1レースを制した「ザッツザプレンティ」や「アサクサデンエン」といった引退名馬もいます。そんな馬たちの飼育を一手に担うのは國彦さんです。
飼育は多忙を極めます。毎朝4時に起床、4時半ごろから厩舎で馬たちへの給餌、水の交換や乾草を置く作業などが始まります。放牧や厩舎内の藁の入れ替え、糞の回収…と、日中も作業は続きます。寝る前にも厩舎を見回り、夜間に馬たちが食べやすいよう乾草を寄せる作業をこなして、夜22時頃、一日の作業が終了します。
年中無休の飼育。國彦さんは一人で行っているため、病院や買物などの外出もままなりません。「夜の見回りの時は体がしんどくて腰が重い」とぼやきながらも、馬たちに向ける眼差しは愛情に満ち溢れているのが見てとれます。
馬にも「セカンドキャリア」がある
近年、競馬人気の高まりで競走馬の飼育頭数は増える傾向にあるそうです。しかし、競走馬の引退は5~6歳くらい(地方競馬だと8~9歳)。引退後も20年ほどの余生があります。
一恵さんは「馬たちのセカンドキャリアの可能性を広げるためには、乗馬文化の普及が必要となってくると思う」と考えています。より多くの人が馬に親近感を持ち、乗馬に関わってほしい——。夫妻はそう願っています。
見学のみの来場でもOK(無料・要予約)。ぜひ一度、魅力的な馬たちの温もりに触れてみませんか?
(取材:令和6年春)
【施設情報】南幌ライディングパーク
住所 北海道空知郡南幌町南8線西14
電話 011-378-5800(営業時間 10:00〜)
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